パソコン(Mac)のOSをアップデートしようと思い立った。
こういう作業はなぜか突然やりたくなる。
普段は見て見ぬふりをしているハードディスクの中を整理し始める。
名前も分からないフォルダ。
いつ保存したのかも覚えていない画像。
「最終版」のあとに「最終版2」「本当の最終版」「絶対これで完成版」などと名付けられたデータたち。
人間は過去の自分を信用していない。
そんなことを考えながらファイルを整理していたら、懐かしい画像が出てきた。
昔描いた「たこ焼き」のイラストである。
たこ焼きなのか惑星なのか分からない部分もある。
でも不思議なもので、自分で描いたものには当時の空気が残っている。
「ああ、こんなの描いてたなぁ」
と思いながら眺めているうちに、別の感情がむくむくと湧いてきた。
たこ焼きが食べたい。
人間の脳は本当に単純だ。
写真を見たら食べたくなる。
テレビでラーメン特集を見たらラーメンが食べたくなる。
動画で焼肉を見たら焼肉が食べたくなる。
理性という高性能な装置を搭載しているはずなのに、食べ物に関しては驚くほど誘導される。
そして一度スイッチが入ると厄介だ。
頭の片隅にずっとたこ焼きが居座る。
仕事をしていても、
「今ごろソースがジュワっと……」
などと考えてしまう。
集中力が弱いのではない。
たこ焼きの引力が強いのである。
少なくとも私はそういうことにしている。
そういえば少し前までは近所にたこ焼き屋さんが二軒あった。
どちらも気が向けば買いに行ける距離だった。
食べたいと思えばすぐ買えた。
ところが気づけば二軒とも閉店して別のお店になっている。
街というのは少しずつ姿を変えていく。
毎日同じ道を歩いていると気づきにくいけれど、数年単位で振り返ると案外景色は変わっている。
お気に入りだった本屋がなくなったり。
昔からあった喫茶店が違う店になったり。
その変化を寂しいと思うこともある。
でも新しい店が誰かのお気に入りになっているのだろう。
街も人も少しずつ更新されていく。
MacのOSだけではなく。
さて、問題はたこ焼きである。
スーパーへ向かった。
まず惣菜コーナーを確認する。
ない。
たこ焼き不在。
期待していた分だけ落胆も大きい。
たこ焼きが食べたい時の「ない」はなかなか重い。
材料を買って作るか?
いや、今日はそこまでの時間はない。
それに私は料理は嫌いではないが、たこ焼き器を出して洗って片付ける未来まで想像してしまうタイプだ。
想像力は便利だが、行動するには体力も時間も奪ってしまう。
どうしたものかと売り場をうろうろしていたら、冷凍食品コーナーで発見した。
冷凍たこ焼き。
君がいたか。
思わず旧友に再会したような気持ちになった。
迷わずカゴへ入れる。
家には鰹節がある。
ソースと青のりだけ追加購入。
これで作戦は完成である。
帰宅して温める。
そして驚く。
最近の冷凍食品は本当に美味しい。
私が子どもの頃の冷凍食品の記憶はもう通用しない。
外はそれなりに香ばしく、中はちゃんとトロッとしている。
もちろん専門店のそれとは違う。
でも十分に満足できる。
技術の進歩というのは、こういうところで実感する。
AIだとか自動運転だとか難しい話もあるけれど、個人的には冷凍たこ焼きの進化もかなりすごいと思う。
人類は着実に前進している。
食べ終わる頃には、頭の中に居座っていた「たこ焼き食べたい問題」も無事解決した。
人間の悩みの中には、AIに聞いても解決しないけれど、たこ焼きで解決するものがある。
たぶん今日はそういう日だったのだろう。
OSアップデートをしようとして始まった一日だったのに、成果はたこ焼きを食べることになってしまった。
まあ、それも悪くない。
毎日寄り道ばかりしている気がするが、
今日もヒゲをととのえながら、残った仕事を再開する。




































